中部支部(早化会)第6回支部総会での木内一壽教授の講演要旨

2013年3月7日(木)「北京料理百楽名古屋店」にてで行われた木内一壽教授講演会の講演要旨です。

講演内容の概要

詳細は付属資料-1のスライド(pdf)を参照願いたい。こちら(PDF)
 

  1. AD患者の脳には、ニューロン(神経細胞)の変性脱落による大脳皮質と海馬の委縮や脳室の拡大が起こり、主要な病理変化として老人斑と神経原繊維変化が見られる。
  2. 老人斑の主要構成成分は、アミロイドβ蛋白(以下Aβ)であり、40-42アミノ酸から成るペプチドで、β―及びγ-セクレターゼ(分解酵素)の働きにより、前駆体蛋白質APPから切断され産生される。
    Aβ-42は凝集し易く、Aβ-40は血管に沈着し易い。特にAβ-42は凝集する事でオリゴマーの段階からシナプス伝達(神経間伝達)に阻害を起こし、更に線維化(老人斑)する事でミクログリアが活性され、炎症によりニューロン死を招く事になる。
  3. ADは発症メカニズムから、家族性ADと弧発性ADの2種類に分けられる。前者は、APPあるいはγ-セクレターゼの遺伝子変異により、多くのAβ40やAβ42が産生されるもので、後者は、個人の生活習慣等に依存して、産生されたAβのネプリライシン(蛋白質分解酵素の一種)による分解能が低下する事によるものである。
  4. 木内教授は、無症候性脳梗塞(所謂まだら呆け)も、加齢やメタボリック症候群が危険因子となり、脳内の局所的低酸素状態が起こるとネプリライシン活性が落ち、Aβが分解されずに凝集され、脳血管障害を起こす可能性を突き止めた。
  5. 脳の記憶部位は記憶の種類により分かれており、AD発症の経過とともに海馬や大脳皮質前頭連合野の機能が損なわれ、AD症状が積み重なりながら数年〜十数年かけて重篤化して行く。早期に発見し進行を遅らせる対処が必要となる。 (1)認知機能に障害がなく生活にも支障がないが物忘れが目立つ→軽度認知障害 (1年で10%が認知症へ移行)。 (2)30分前の体験を忘れてしまう→短期記憶の形成不全(海馬)。 (3)人や物の名前を忘れてしまう→長期記憶の想起機能の低下(側頭葉と海馬)。 (4)自分のいる場所が分からなくなり徘回を始める→(前頭連合野と頭頂連合野)。
  6. 若年層の生活習慣病で怖いのはU型糖尿病であり、AD発症の危険因子として高いリスクとなっている。広く普及している食事・運動や投薬療法に加え、最近では速い段階からのインスリン投与が推奨されている。
  7. 人類が生き延びるため必須な神経細胞と自然免疫系細胞(マクロファージ)はその活動エネルギーの多くをグルコースに頼っている。
    マクロファージが出動すると、優先的にエネルギーを得ようとしてTNF-αという腫瘍壊死因子を分秘する事で、インスリン抵抗性(膵臓から分秘しているインスリンが、脂肪細胞や骨格筋のグルコース取り込みに十分作用しない状態)を発令し、血液中のグルコース濃度(血糖値)を上げ、マクロファージ自らが優先的にグルコースを取り込み活性化する。
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  9. U型糖尿病への移行は、生活習慣病で多くみられる肥満の場合、肥満脂肪細胞からの遊離脂肪酸の放出と肥満を低レベルの炎症ととらえマクロファージが活性化する事によるインスリン抵抗性の増大とが相俟って高いグルコース濃度(血糖値)が維持される事による。
  10. グルコースの中では、開環型D-グルコースにおけるアルデヒド其の反応性が高く、蛋白質と数段の反応を経て、不可逆的な糖化最終産物を産生する。この糖化最終産物は血管を脆くするなど老化の原因となり、ADや脳梗塞及び心疾患を引き起こす原因となる。
  11. AD病になりやすい遺伝子としてアポリポリ蛋白質E(アポE)が知られており、構成しているアミノ酸の配列からE2,E3,E4の3つの型がある。危険因子はE4であり、E4遺伝子を持っている人はADの発症リスクが高い。アポEの「一塩基多型(SNPs)」のゲノム解析でE4の存在を知ることが出来たら、若い頃から生活習慣病を予防する事がADの予防に繋がると言われている。但しゲノム解析は今のところ高価であり(≒100万円)、米国ではゲノム解析を受託する会社も出てきておるところから、10万円程度で解析出来る時代の早く訪れる事が期待されている。
  12. 最近の話題として、京都大学で家族性認知症患者から作製したiPS細胞を使ってDHA(ドコサヘキサエン酸)の投与が、ADの発病予防に役立つ可能性がある事が確認された。
  13. 前日のNHKテレビ番「あさイチ」で放送された「ちゃんと知りたい!若年性認知症」から、2人の若年性認知症患者の紹介があり、最も大事な早期発見・早期治療をする為の家族が知っておく初期症状、発病後も病気の進行を抑えながら生活する方法について紹介された。
  14. 最後に以下の3つの重要なアドバイスを述べて講演を終えられた。
    • 「軽度認知障害(認知症ではない)」の段階から本格的な治療を始めればADの 移行を遅れさせる事が出来る。(30分の昼寝、ウオーキング、緑黄色野菜や青 魚の摂取、趣味など生甲斐を持つ等々)。
    • 脳の神経細胞が減っても活発に頭や身体を使う事で発病予防が可能。(社交ダン ス、合唱、俳句・短歌、有酸素運動)
    • 発病予防の生活習慣3ケ条
      • 生活習慣病(U型糖尿病、脂質異常、高血圧、高尿酸血症)に陥らない食生活。
      • 毎日30分の散歩或いはスロージョギング(脈拍目標120)。
      • 新しいことに意欲を持って取り組む。
   
以上(文責 堤 正之)

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